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『さあ『資本論』を読んでみよう』書評

渡辺雅男氏(一橋大学名誉教授)から『さあ『資本論』を読んでみよう』の書評をいただきました。


 

『さあ『資本論』を読んでみよう』を読んで

渡辺雅男(一橋大学名誉教授)

 

 余斌さんの『さあ『資本論』を読んでみよう』を、最後まで読みました。第13章がとても面白い。まず、個人的所有の復権という主張に驚きました。個人的所有とは消費手段に限られるというのが、正統派マルクス経済学の伝統的主張だったわけで、日本でも「経済学教科書」以来、一貫して正統派が唱えていた主張だったわけです。それを60年代末に平田清明が「個体的所有の復権」を掲げて華々しく論陣を張って、市民社会派の突破口を開いたことはご存知のとおりです。この主張がまさに余さんによって中国で今、改めて唱えられていることに驚きました。
 もちろん、余さんの復権論は、分散的所有を超えた社会的規模での復権ですから、ここは70年代の平田の主張と大きく離れるところです。平田は個人を重視しすぎて、社会の視点が弱い、とは、関東学院大学で『市民社会と社会主義』刊行を記念して開かれたシンポジウムで宮崎犀一が平田に直接が浴びせかけた批判でした。
 その意味で、余さんの主張が集団を重視し、その中での労働者個人の自由を実現するという視点から唱えられていることは、日本の市民社会派は大いに評価し学ばなければならないところです。「自由な個人の連合体」というこの章のタイトルも、日本の最近のアソシエーション論よりも、もっと現実的で批判的な意味が込められていますから、日本の多くの読者には強烈な刺激となるはずです。現在の中国の状況の歴史的位置付けも、市場化の流れに浮き足立っている日本のマルクス経済学者なら、足がすくんで語ることができないくらい大胆な解釈で、正否は別にして、考える刺激を与えてくれるはずです。
 多くの点で、ハッとする、刺激に満ちた貴重な本です。

 


 

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